トイレに行きたいのを我慢した日は、いいことが起こるような気がすると
中学校の卒業式で悟ってからしばらくの時間がすぎた。
今日から沖縄出張。仕事だと思うと沖縄でもこんなにもウキウキしないものか。
朝起きて五反田駅前の立ち食いうどん屋で鳥からうどんを食べ、羽田に向かう。
そういえば今日は朝寝過ぎたせいでトイレに行けなかった。
高架下でタクシーを呼び止め、拾い乗車。タクシーの運転手がチラチラと見てくる。
「お兄さんどっかであったよね」
「いや初めてだと思います」
「いーや、絶対に会ってる」
「どこでですかね〜(思い出せないなら言わないでおくれムッシュー)ANAなんで第2でお願いしますね〜」
羽田につきチェックインをするときに財布がないのに気づく。
あーついてない。今日は双子座は12位だっけねなんて思いながら、慌てて領収書に書いてあるタクシー会社に電話して携帯のアプリでチェックインをする。出発までは時間があるが、取りに行くのも面倒くさいので保管してもらうことになった。
1週間の沖縄出張中、財布はないが問題はない。最近は携帯があれば生きていけるのだ。
この文明の発展には30手前の僕でも平気で驚くことができる。
ANAは客室乗務員のお姉さんが可愛いと時代錯誤の化石化した(と言って自分は顔では見てない風を装うとかえって良くない)考えをもつ友人Aの紹介で僕の身の丈の倍はある女性と付き合ったことがあった。あの頃が今思うと人生のピークだった。
芸能人で言うと菜々緒とYUKIを足して2で割った感じの人。綺麗ではあるけどどこか闇がある感じで、20代前半の自分には奥深い女性だったので自分の浅さに嫌気がさして別れてしまった。
ANAは相変わらずリンゴジュースが美味しいが、それは子どもがよく頼むだなんて言われたこともあったっけな。
だから格好つけて
「コーヒー ブラックで」
なんて言ってしまう。どうせ綺麗な人が持ってきてくれるのだから、自分なんか相手にされないと思っていてもつい格好つけてしまうんだな。
※良い子のみんな、コーヒーでは格好はつきませんよ
結局いつも顔なんてまともに見れないし、相手に手が触れないように気をつけるんだよ。
手が触れたくらいで恋に落ちるなんてそれこそ何百年前の御伽噺だよって感じだからね。
コーヒーなんてブラックで飲めるのねカッコいいね「28Aのお客様今すぐCA室にお越しください」なんて言われてね。それからアドレスなんか渡されちゃってね。私、那覇で3日休みもらってるんですけど1人で暇なんですよねなんて言われっちゃったりね。
ん?
突然綺麗な手が僕の右手を包んだ。
何か革のような物だったがそれが自分の財布だと気づくまでに東京からNYまでのフライト時間くらい時間がかかった。
財布じゃんか
久しぶりだね。
忘れ物だって。お父さんが
機内には乱気流より激しい気の乱れと、
春一番が吹いたのでした。
彼女お父さんがタクシーの運転手だなんて言ってたっけか。
無論、3日那覇で休みなんかないらしいし、格好をつけてアドレスもラインのI Dも聞いてないからお礼のしようがない。
少しでも話したくてコーヒーをお代わりしてしまったっけな。
トイレなんか我慢できるもんか
Yuki Isoya- Bisuketto (subtitulado al español)
ポケットに入っていたビスケットは要らないんだけどね。
fin.